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二章 一節 「絶対的に信じられるものは?」

Author: 桃口 優
last update Last Updated: 2025-10-21 03:28:16

 絶対と言えるものはなんだろうか。

 僕は前に彼女に言われたことについて考えていた。

 僕はこのような哲学的なことを考えることは別に好きではない。

 でも考えずにはいられなくなっていた。

 それは人によって異なるのだろうか。それとも同じなのだろうか。

 同じではない気がした。

 僕が絶対的に信じているものとしてぱっと浮かぶものは、親の子を思う愛だ。

 愛とは本当に尊いもので、それだけで信じるに値する。

 親は子どもを裏切らないと僕は心から信じている。

 それは時に盲目的になることもある。それでも子どもを思っていることは確かだ。

 無償の愛と呼べるものではないだろうか。

 僕は一人っ子だ。

 さらにお父さんとお母さんが年をとってから生まれた子だったから、自分で言うのもなんだかとてもかわいがられ大切にされた。

 親の愛情を子どもの頃から強く感じていた。

 僕はその気持ちに応えるために、言うことをしっかり聞いていい子でいることを心掛けていた。

 そうすることも決して苦ではなかった。

 もちろん反抗期はあったけど、今では親と一緒に出かけたりするのも嫌ではない。

 それも一つの親孝行だと思っている。

 そんな親も今ではもうすっかり年をとって、少しずつ身体も不自由になってきている。

 ゆくゆくは僕が親の面倒をみたいと考えている。それが今までしてもらったことへの恩返しだと疑わない。

 家族のあるべき姿だとさえ思う。

 もちろん、僕の考えを無理やり押しつけたいわけではない。ただ僕がそう思っているだけだ。

 僕と親の間には深い絆がある。

 決して誰かが引き裂くことは不可能だ。

 あのあと、彼女を追いかけた。

 今度こそしっかり話を聞きたいと思ったからだ。

 そして、今絶対的に信じられるものは何かと聞かれたので、親だと伝えた。

「ふーん、じゃあ私の提案を黙って受け入れてくれる?」

 彼女は楽しそうに不敵な笑みを浮かべていた。

 話がどうにもかみ合わない。

 いや、僕の理解が遅いだけで、話はうまくつながっているのかもしれない。

 彼女はまるで何かいいことを思いついたような子どものようだ。

 その姿にどこか懐かしさを覚えるのはなぜだろう。

 いつの間にか太陽が沈み始めていた。

 冬は夜が更けるのが本当に早い。

「いいですよ。何をしても家族の絆が壊れるはずがないから」

 どんな内容であっても僕はこのことにだけは自信があった。

 いや、僕は今盲目的なのだろうか。

 わからなくなってきた。

「じゃあ、今から律の実家にいこうか」

「えっ、なんでですか?」

 またしても突然の提案に僕は大声を上げた。

「何でも黙って受け入れてくれるんでしょ? それから親の前では私の意見に合わせることと何があってもイエスで答えてね」

 なんだか不穏なことが起きそうな気配を感じた。

 それでも、僕には大丈夫だと思えるものがあった。

「提案内容も教えてくれないんですね。まあ、わかりました」

 そうして、僕たちは実家に向かったのだった。

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